「そろそろ主任にならない?」
ある日突然この打診を受けて素直に喜べない自分に戸惑っている。「看護師 師長 なりたくない」と検索してこの記事にたどり着いた方は、きっとそんな状態だと思います。
私は都内の大学病院のICU・CCU・救急救命で12年働いたあと、治験コーディネーター(CRC)を経て、いまはケアマネジャーとして働いています。そして私自身、実際に主任の打診を受けて断った経験があります。
この記事では断った理由と断ったあとの正直な気持ち(きれいごとだけではありませんでした)、そして知っておいてほしい制度の現実を書きます。
結論から言うと役職になるかどうかは「偉くなりたいか」ではなく「50代以降をどう設計するか」で考えるべき問題です。そして選択肢は「昇進する/しない」の2つだけではありません。
昇進の打診に迷うのは甘えではない
まず、打診されて迷うのは自然なことです。看護師の管理職は割に合うかどうかが本当に微妙なポジションだからです。
現場で見てきた師長・主任の仕事は、シフト調整、クレーム対応、上と下の板挟み、委員会、書類。夜勤が減る代わりに責任と残業が増える。「役職手当の額」と「背負うものの重さ」を天秤にかけて、迷わない人のほうが少ないと思います。
「私には向いていないかも」と感じるのは逃げではなく仕事の中身を冷静に見ている証拠です。
私が主任の打診を断った理由:役職手当は月1万円だった
私の場合、打診されたときに確認した役職手当は月1万円でした。
月1万円もらえて「主任」という箔が付くことを望むか。それともたった1万円であの責任を背負うのは割に合わない、自分と家族の時間を大切にしたいと考えるか。
私は後者でした。シフトの穴埋めに頭を悩ませスタッフと上層部の板挟みになり、クレームの矢面に立つ。その対価が月1万円。私にはその1万円より家族と過ごす時間と自分の心の余裕のほうが大事でした。だから断りました。
金額は病院によって違います。でも打診されたらまず手当の額を具体的に確認してください。「主任になる」という漠然としたイメージではなく「月○円で何を背負うか」という具体的な取引として見ると自分の答えが出しやすくなります。
断ったあとの正直な気持ちも書いておきます
きれいに割り切れた、と言いたいところですが正直に書きます。
自分のあとに他の人が主任になったとき「この人は断らなかったのか」と思う自分がいました。役職が上がっていく同期や後輩を見て「いいな」と思う瞬間も確かにあったのです。
断ったのは自分なのに、です。人間はそういうものだと思います。
それでもあの選択を後悔はしていません。役職の道を選ばなかったからこそCRCへの転職も、ケアマネとして働くことも、いまの独立という目標もあります。「いいな」と思う瞬間があることと、選択を後悔することは別物です。これから断ろうとしている方には羨ましさは多分あとから来る、でもそれは選択が間違っていた証拠ではないと伝えたいです。
役職に就くメリット
公平にメリットも挙げます。
- 役職手当がつき、基本給ベースが上がる。夜勤に頼らず収入を保てるのは体力面では大きな利点です
- マネジメント経験が積める。人員配置、教育、部署運営の経験は、転職市場でも評価されます
- 現場を変える側に回れる。働きにくさを感じてきた人ほど変える権限を持つ意味はあります
- 夜勤が減る、または外れることが多く生活リズムは整いやすくなります
管理の仕事にやりがいを感じるタイプなら役職は立派なキャリアです。
知っておいてほしい現実:役職定年55歳の壁
ただしこれだけは知ってから決めてほしいという現実があります。
私のいた病院では役職に就いていると55歳で役職定年でした。それ以降は嘱託扱いになり、給料はがくんと落ちます。
つまり「役職に就けば定年まで安泰」ではないのです。責任を背負って働き続けた先に、55歳で役職も収入も同時に手放す節目が待っている。管理職として頑張った人ほどこのギャップは大きくなります。
役職の打診を受けたらまず自分の病院の役職定年の規定を確認してください。就業規則を見るか、先輩の実例を聞けばわかります。60歳以降の再雇用の条件と合わせて「役職に就いた場合の55歳から65歳までの10年間」を具体的に想像してみることをおすすめします。定年制度の全体像は看護師は何歳まで働ける?にまとめています。
「昇進する/しない」以外の第三の道
私が選んだのは組織の中で上に登るのではなく、資格と転職でキャリアを横に広げるという選択です。
CRCへ転職し、働きながらケアマネ資格を取り、いまは主任ケアマネを取って独立開業することを目標にしています。自分の事業所を持てば役職定年も定年もありません。何歳まで働くかを制度ではなく自分で決められるキャリアです。
役職の道と比べたとき、この道の特徴は次の通りです。
- 収入の上がり方は緩やか(正直、一時的に下がる転職もありました。実際の手取りはこちらで公開しています)
- その代わり55歳で強制的に下ろされる梯子がない
- 資格(ケアマネ、主任ケアマネなど)は自分のもので組織が変わっても消えない
どちらが正解ということではありません。「組織の階段」と「自分の資格」のどちらに積み上げるかという設計思想の違いです。
判断のための3つの問い
打診に迷ったらこの3つを自分に問いかけてみてください。
- 管理の仕事そのものに興味があるか。手当や断りにくさではなくシフト調整や人材育成を「やりたい仕事」と思えるか。思えないまま就くと役職は重荷にしかなりません
- 自分の病院の役職定年後を具体的に想像できるか。55歳以降の給料と立場がどうなるか、確認したうえで魅力的に見えるか
- その時間とエネルギーを資格や転職準備に使う道と比べたか。比べたうえで役職を選ぶなら、それは前向きな選択です
打診を断ってもキャリアは終わらない
「断ったら居づらくなるのでは」と心配になると思います。実際、多少の気まずさはあるかもしれません。
でも断った先に道がなくなるわけではありません。看護師には組織の外にも選択肢が豊富にあります。CRC、ケアマネ、訪問看護、健診。詳しくは病院を辞めても大丈夫/看護師の働き方9選にまとめています。40代・50代からでも遅くないことは40代・50代からの看護師転職に書いた通りです。
よくある質問(FAQ)
Q. 主任・師長になると給料はどれくらい上がりますか? A. 役職手当は病院によって差が大きいです。私の場合、主任手当は月1万円でした。夜勤手当が減る場合はトータルでは思ったほど増えないこともあるので、手当と夜勤の増減をセットで確認してください。
Q. 役職定年はどこの病院にもありますか? A. すべてではありません。ただ私のいた病院のように「役職は55歳まで、以降は嘱託で給料減」という規定を持つところは実際にあります。就業規則で必ず確認を。
Q. 一度断ったら二度と打診されませんか? A. 組織によりますがタイミングを変えて再度打診されるケースは珍しくありません。「今は」という留保をつけて断る方法もあります。
Q. 管理職経験は転職で有利になりますか? A. なります。ただし管理職経験がなくても私のように資格と実務経験でキャリアを作る道は十分にあります。役職は転職の必須条件ではありません。
まとめ:役職は「ゴール」ではなく「選択肢のひとつ」
- 昇進の打診に迷うのは自然なこと。管理職は割に合うか微妙なポジション
- 私は役職手当月1万円と責任を天秤にかけ家族との時間を選んで断った
- 断ったあとに羨ましさを感じることもある。でもそれは選択ミスの証拠ではない
- メリットは手当・マネジメント経験・夜勤減。管理が好きなら立派な道
- ただし役職定年55歳→嘱託で給料減という現実がある病院も。規定を必ず確認
- 「昇進する/しない」以外に、資格と転職で横に広げる第三の道がある
- 判断基準は「管理の仕事が好きか」「55歳以降を想像できるか」「他の道と比べたか」
役職に就くことも、断ることも、組織の外に出ることも、全部キャリアです。上に登るかどうかだけでなく、この先20年をどこに積み上げるかを考えるチャンスだと思ってください。
あなたの分岐点のヒントになればうれしいです。

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