CRC(治験コーディネーター)への転職を考えるとき仕事内容の説明を読んでも、
「実際の現場ってどんな雰囲気なの?」
「被験者さんはどんな人?」
「CRCは1日の中で何をしているの?」
というイメージはなかなか掴みにくいと思います。
私はⅠ相治験、つまり健康な成人を対象にした治験施設で12年働いてきました。
この記事では治験の被験者さんが入院中にどんな1日を過ごしているのか、それを支えるCRCがどんな仕事をしているのかを現場の内側からお伝えします。
病棟とはまったく違うCRCの空気感を少しでも感じてもらえたらうれしいです。
I相の被験者さんは「健康な人」が中心
まず大前提として、Ⅰ相治験の被験者さんは患者さんではなく健康な成人が中心です。
Ⅰ相は新しい薬の安全性を最初に確認する段階です。
そのため病気のない健康な方に協力してもらう試験が多くあります。
対象は男性だけではありません。
試験によっては女性が参加することもありますし、ワクチンなどの治験では高齢者が対象になることもあります。
海外での承認申請やデータ取得の目的で、日本に住む外国人の方が参加する試験もありました。私が働いていた施設では外国人対象の試験は謝礼金が高めに設定される傾向がありました。
いずれにしてもⅠ相でCRCが向き合う相手は基本的には「容態が急変するかもしれない患者さん」ではなく健康な被験者さんです。
ここが病棟との大きな違いです。
そしてCRCの現場の緊張感が病棟とはまったく違う理由でもあります。
入院中の1日:基本は「自由」でも投薬日は別
被験者さんの入所生活は想像よりもずっと穏やかです。
投薬日以外は基本的に自由時間が多くあります。
施設には無料Wi-Fiがあり被験者さんはスマホを見たり、本を読んだり、勉強をしたり、思い思いに過ごしています。
消灯は22時、起床は8時。
生活リズムは決まっているので規則正しい合宿のような雰囲気です。
ただし自由といっても何でも自由にできるわけではありません。
治験では体に入るもの、体に触れるもの、生活の中で使うものにも細かいルールがあります。
たとえば歯磨き粉やシャンプー類は施設指定のものを使用します。
リップクリームや化粧水なども使いたい場合は医師の確認が必要になることがあります。
飴やガムなどの嗜好品の持ち込みも禁止です。
こうしたルールはすべて治験データの正確さを守るためにあります。
CRCは被験者さんに生活ルールを説明し守ってもらえるように管理する役割も担っています。
「ベテラン被験者」という存在
長期の入所試験にはいわゆる「ベテラン被験者」と呼ばれる方が応募してくることもあります。
ベテラン被験者さんにはいくつか共通点があります。
時間を守る。
指示をきちんと聞いてくれる。
検査や投薬の流れを理解している。
事後検査にも遅刻せず来てくれる。
トラブルが少なく体調変化も起こしにくい。
治験は分刻みのスケジュールで動きます。
決められた時間に採血をする。
決められたタイミングで心電図をとる。
決められた条件で食事や投薬を行う。
この流れが崩れるとデータに影響が出る可能性があります。
そのため協力的で時間を守れる被験者さんは現場にとって本当にありがたい存在です。
ちなみに謝礼について触れておくと私がいた施設では入院試験の謝礼は1泊あたり2万円程度、スクリーニングと呼ばれる事前検査の謝礼は1万円程度が目安でした。
金額は試験内容や期間、施設によって異なります。
ただ被験者さんにとって謝礼が参加の動機のひとつになっているのは事実だと思います。長期の入所試験にはいわゆるベテランの被験者さんが応募してくることが多いです。
CRCの仕事は「時間管理」が命
投薬日の話に入る前にCRCの時間管理についてお伝えします。
治験では検査や投薬を「だいたいこの時間」ではなく、決められた時間どおりに行います。
時間管理は自分の感覚や腕時計だけでは行いません。
CRCはストップウォッチを首から下げ、1分1秒を意識しながら検査や投薬を進めます。
時計合わせも重要な業務です。
毎日業務に入る前に時報を確認して時計を合わせます。
施設内の時計、ストップウォッチ、記録に使う時刻がずれないようにするためです。
治験の世界ではたとえば本来9:00に実施すべき検査が8:59に記録されてしまうと逸脱になってしまいます。
「たった1分」では済まされない世界です。
この時間の正確さこそCRCの仕事の大きな特徴です。
病棟では急変や緊急入院などで予定が変わることが日常的にあります。
一方、治験では「予定どおりに正確に進めること」が何より大切になります。
投薬日が本番:採血2分おきの世界
投薬日はCRCの腕の見せどころです。
薬を飲んだあと血中濃度がどのように変化するのかを調べるため、決められた時間に何度も採血を行います。
基本的には2分インターで被験者さんに対して順番に正確に採血をしていく。
のんびり丁寧にやっている時間はありません。
採血はあらかじめ留置針を入れておき、そこから逆血させて行います。
もし逆血がうまくいかなければすぐに反対の手から採血する判断が必要です。
1人分が遅れると次の被験者さん、その次の被験者さんへとドミノ式に遅れてしまいます。
そのため詰まったときはすぐにナースコールを押し、他のスタッフに次の被験者さんの採血をお願いします。
自分一人で抱え込むのではなくチームで時間を守る。
これが治験の現場ではとても大切です。
このリアルを知ると、私が「CRCはせっかちな人の方が向いている」と感じる理由が分かってもらえると思います。
心電図も重要な商品:きれいにとることが求められる
採血と並んで重要なのが心電図です。
治験では心電図も大切なデータになります。
そのため電極の付け間違いは大きなミスです。
私がいた施設では四肢の電極をベッドシーツを利用して引き込んだ状態で装着する方法をとっていました。こうすることで四肢の電極の付け間違いを防ぎやすくなります。
こうした小さな工夫の積み重ねが揺れの少ないきれいな心電図につながります。
病棟では心電図は「読めればよい」という場面もありますよね。
しかし治験では心電図は申請資料や解析に使われる重要なデータです。
つまり、ただ取れればいいのではなくきれいで正確なデータとして残すことが求められます。
この基準の違いに病棟からCRCに転職した人は最初とまどうかもしれません。
CRCは被験者さんの生活とデータの正確さを守る仕事
Ⅰ相試験には2つの時間軸があります。
ひとつは、被験者さんが規則正しく穏やかに過ごす時間。
もうひとつは、投薬日のように分刻みで検査が進む緊張感のある時間です。
CRCはその両方を支えています。
被験者さんに治験のルールを説明する。
入院中の生活を管理する。
スケジュールどおりに検査を進める。
採血や心電図を正確に実施する。
記録を残しデータの信頼性を守る。
病棟のように急変対応に追われる緊張感は少ないです。でも治験には治験ならではの緊張感があります。
時間を守る緊張感。
データを正確に残す緊張感。
被験者さんに安心して協力してもらうための関わりです。
まとめ:CRCは病棟とは違う形で医療に関わる仕事
Ⅰ相試験の被験者さんは健康成人が中心です。
入院生活は投薬日以外は比較的穏やかで自由時間も多くあります。
一方で、持ち込み物や生活ルールには細かい決まりがありすべては治験データの正確さを守るために管理されています。
投薬日には2分おきの採血や心電図など分刻みのスケジュールを正確に進める必要があります。
CRCは被験者さんの生活を支えながら治験データの正確さを守る仕事です。
急変に追われる病棟とは違います。
でも医療者としての知識や判断力、正確に動く力はしっかり活かせます。
「患者さんのケア」とは違うけれど医療に関わる大切な仕事。
それが私が12年働いて感じたCRCの現場です。
CRCへの転職を考えている看護師さんにとってこの記事が少しでも現場をイメージするきっかけになればうれしいです。
CRCの仕事内容や向き不向きは、治験コーディネーター(CRC)とは?やCRCに向いている人・向いていない人でも詳しく書いています。投薬日の専門的な流れはCRCの投薬日の仕事で解説しています。


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